名古屋大学航空宇宙工学科の就職先実態~パイロット?飛行機の整備?技術者?~

日本の航空宇宙工学を学べる大学は数少ない。

その中でも、東京大学、京都大学に次ぐ偏差値を誇るのが、名古屋大学の機械航空工学科である。例年応募人数は多く、倍率は名古屋大学工学部の中でも1、2を争う。そんな名古屋大学機械航空工学科の就職先の実態を明らかにする。

学部就職

学部就職というのは、大学4年間を終えて就職することだ。

「えっ、普通でしょ?」と思うかもしれないが、現状は大きく異なる。そもそも、述べておきたいのは、名古屋大学機械・航空宇宙工学科では、大学院進学率が80%以上はある。航空宇宙工学コース(私が学部生の時代)では、30人中就職したのは、1人だけだった。以下、リンクは、工学部全体のものしかないが、工学部の進学傾向は分かるであろう。

http://syusyoku.jimu.nagoya-u.ac.jp/data/H30sinro.pdf

学部就職の現状

進学率がこれほどまでに高い理由というのは、大企業になればなるほど、新卒の技術者(開発とか設計する人、モノ作りする人)は大学院生の割合が多くなっている実情がある。企業からすると、モノを作る人は、研究や知識の土台が学部生よりしっかりしている大学院生の方がコスパ良いだろうってこと。(実際は、大学院生でも授業中にゲームしかやってない人も多くいるが。。。)

つまり、クルマを作りたい!とか飛行機作りたい!って人は、大学院に行かないと、就職してから、やれたいことやりにくいというのが現状。決して、やれないわけではなく、「やりにくい」。今はベンチャーも世の中にたくさんあるしね。堀江貴文いわく、今の時代に大学に行くこと自体、無駄らしいので。

というわけで、学部で卒業して、就職する人というのは、文系就職が多い。文系就職というのは、営業だとか人事だとかのいわゆる総合職。詳しく知りたい人は、ぐぐってみてください。あとは、学部卒から、航空大とか防衛大とか行って、パイロット目指す人。これは学年に何人かいるイメージ。
以上のような現実から、学部卒に書いてもほぼ参考にならないので、この記事では、大学院卒について詳しく書いていきます。

院試の記事はこちら

www.sukenojo.com

大学院の仕組み

別記事でも詳しく書くが、

そもそもの前提として、専攻により就職先の傾向はかなり変わってくる。(外部の人から言わせたらそんなに変わらないかもしれないが)

まず、名古屋大学の「機械航空宇宙工学科」と呼ばれていた学科は、大学院では以下の3つに分けられる。

  • 機械システム工学専攻
  • マイクロナノ機械工学専攻
  • 航空宇宙工学専攻

研究内容も就職先もかなりそれぞれの色が出てくる。今回は、私の所属するところというのもあって、航空宇宙工学専攻の就職先について詳しく説明する。その他の専攻については、今年の就活が終わったときにでも、同級生の話を聞いて書くことができたら良いかと思う。

航空宇宙工学専攻の特徴

工学部であって、パイロット養成所ではない。

そもそもとして、「工学部」であるため、エンジニア(技術者)を育てる学部である。パイロット養成所ではないため、パイロットになるための授業はない。ただ、飛行機や戦闘機、ロケットの仕組みについての授業は数多くあるため、パイロットになるための知識養成としては申し分ないと思う。実際、学年に数人はパイロットになるため就活したり、航空学校に進学したりする人はいる。

次世代戦闘機や旅客機、宇宙研究のためのロケットや人工衛星の技術者

前述したように、やはりメインはこちらである。次世代の飛行体の開発や設計をするために基本的な知識から最新の技術動向まで幅広く網羅されている。正直、こちらは、大変面白く、貴重である。講義には、三大重工会社(ググってみてください。MHI, KHI, IHI)や航空部品会社(ナブテスコ、島津製作所)の技術者、JAXAの研究者たちが頻繁に来る。大学までの理論的なところだけでなく、より製品に近い話が聞けるため、とても興味深い。この点は、航空宇宙工学専攻ならでは、だと思う。

学校で学ぶこと。

電動飛行機が近いうちに実現する?電動化すると、何が嬉しい?

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飛行機整備する人

成田国際空港とか中部国際空港とかにいる飛行機の整備している人。JALとかANAとかの採用になるのかな?整備士になる人はたまにいるが、ほとんどいない。学んだ知識がすごく生きそうな気がするがいない。おそらく、入社した後でも教育体制が広いから大学で学ばなくても、やっていけるのだと思う。ただ、戦闘機の整備などは、重工系会社が担当しているため、そちらに就職すると、業務としてやることは実際に数多い、と先輩から聞いたことある。これについては、後述。

でも、重工系の会社では、一生整備士ではなく、あくまで開発や設計をやるための現場実習、下積みだということ。図面(開発、設計)を作るためには、リアルなモノ(既製品、既に飛んでいる飛行機)を見ないとわからないでしょ、ということ。それにげんなりして、転職した先輩もいる。

過去の就職先実績

HP記載の就職先実績

実際の過去の就職先実績を見てみる。

卒業後の進路

定員30名弱の航空宇宙工学コース卒業生は、ほとんどの人が大学院に進学します。
大学院を修了した学生は、航空宇宙産業のみならず、様々な分野で活躍しています。

卒業生の主な就職先

IHI、アイシンAW、伊藤忠商事、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、エステック、MHIエアロスペースシステムズ、王子製紙、川崎重工業、キヤノン、JR東海、JR西日本、JR東日本、ジャムコ、住友商事、セイコーエプソン、全日本空輸、損害保険ジャパン、大同特殊鋼、中日新聞、中部電力、デンソー、東京電力、東邦ガス、東明工業、東洋エンジニアリング、東洋ビジネスエンジニアリング、トヨタ自動車、日産自動車、日本ガイシ、日本飛行機、日本航空、日本航空インターナショナル、日立製作所、日立プラントテクノロジー、日立コンシューマ・マーケティング、富士重工業、本田技研工業、松下エコシステムズ、松下テクノトレーディング、マツダ、三井物産、三菱重工業、三菱電機、ヤマハ発動機、ユアサ商事、リサイクルワン
(博士前期課程修了生 過去5年間)

https://www.engg.nagoya-u.ac.jp/school/mechanical/aerospace.html
名古屋大学HPより引用。

あくまでこれは先輩たちの就職先。一人でもいれば上のように記載される。しかも過去5年間。実際の就職先の割合を見ると、大きく印象が異なるであろう。

実態

私の研究室の直近の進学先を一部、公表する。

2018年:川崎重工業3名、進学(博士後期課程)1名、他数名(留学生も合わせるとわからない、ごめんなさい)

2019年:アイシンAW1名、IHI1名、川崎重工1名、デンソー1名、パナソニックエコシステムズ1名、三井物産1名、三菱重工1名

2020年:川崎重工1名、コマツ2名、マキタ1名、三菱重工2名

2021年:川崎重工2名、トヨタ1名、デンソー1名、キャタピラージャパン1名

これを見て、みなさんは何を感じるであろう?

あくまで、私の研究室の例である。他の研究室でも一概にこうとは言えない。
しかし、内部の私が言えるのは、やはり重工系に進む人が圧倒的に多いという傾向は変わらない。

毎年、半数とまではいかないが、3分の1は重工系に進む、と言ってもいい。これの理由としては、

  1. 学生が元々、飛行機を作りたいとかロケットを作りたいとか意志がある
  2. 重工系の会社の選考が進みやすい(航空を学ぶ学生は全国的にも圧倒的に少なく、重宝される)
  3. 先輩から重工系企業の選考のノウハウが伝わってくる

どれも大きいが、研究室選びの指標の一つとして、「3.」は大きいだろう。就活は情報戦でもある。先輩の就職先の「割合」は、研究室選びの一つの大きな指標であろう。重要なのは、「割合」だ。一人だけ、ある企業に行ったことがあるとしても、それは個人の能力である部分は大きい。あくまで、「行きやすさ」を考えると、「割合」は大きな指標であるといえる。
結論として、重工系の会社に行きたいなら、航空宇宙工学専攻は、うってつけだ

企業選び放題?–推薦–

yahoo知恵袋や他のサイトでは、理系大学院生には、推薦制度というのがあり、就活の際、通常のルートとは異なるルートが存在し、就活は必要ないという記事も見受けられる。研究室に、企業から応募が来て、その中から、大学院生が順番に企業を選んでいく、とか。じゃんけんで決めたこともある、とか。

はっきり言おう。
それはいつの時代の話だ?

そんな時代はとっくに終わっている。確かに、特定の研究室からの学生が特定の企業に行けば、研究室としても企業としても長年の関係があるし、ある程度お互いのことがわかっているから、教授が企業に「推薦」するのは納得だ。しかし、今はそんな時代ではない。

推薦制度はどちらかというと、学生にメリットが大きかったのかもしれない(大企業の中から、厳しい専攻無しで、自由に選べるから)が、今は、「企業の担保」のような形で使われている。これについては、別記事にて説明しているので、そちらを参照してほしい。

www.sukenojo.com

ここで言いたいのは、推薦制度なんてものはないので、理系大学院生だろうと就活は必要だ。文系ほど何十社も選考を受ける学生はまれだが、ほとんどの学生は複数社の選考を受ける。そして、内定を獲得する。つまり、就活するのはどこの大学に行っても変わらない。特定の企業に行きやすいかどうかはあるが、あくまで、行きやすい程度のため、推薦制度を期待するのはやめたほうがいい。

まとめ

つらつらと述べてきたが、このネット社会だからこそ、いろんな情報が出回っている。私は高校の頃、これらの情報に全く触れてこなかったので、少しでもこの情報が大学選び、大学院選びの参考になれば、と思う。この記事もあくまで参考程度に、「学生の一意見」ということを忘れずに、いろいろな情報を集めてもらえれば、と思う。

日本で飛行機を作るなら、重工に入るのが最善なんでしょうか?続きは以下の記事で。

重工会社の違いを知っていますか?【三菱重工】【川崎重工】【IHI】【富士重工】

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